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スローライフVo.18/胸に残る果実の味


 河口湖にやってきた次の年の春。
 つまり今から8年前のことになるが、信州に住む妻の父が、プルーンの苗木を2本、それとリンゴの苗木を1本、両手に携えて我が家にやって来た。
 前日に「大きな穴を三つ掘るように!」と言われていたボクは、義父の持参した苗木があまりにも小さかったので、些か肩透かしを食らったような気分になったが、園芸の達人である義父の指示に従って、せっせとその3本の苗木を植えた。
 義父の職業は山岳カメラマンだ。が、農業大学を出ており、やたらと植物に関する造詣が深い。
 信州の義父の家の庭には、リンゴ、プルーン、葡萄の木がいたるところに植えられており、そのどれもが、それぞれの季節になると豊かに実を成らせ、我々もその手製の果物を賞味させてもらっている。
 義父の作る果物はいずれも独特の甘みを持った味わいで、ボクも自分の庭にそれらが実ることを楽しみにしていた。
 プルーンの木には3年ほど前から実がなるようになった。ところがリンゴの木には、3年前の冬にピンポン玉のようなサイズの実が二つ成ったきり、一昨年も昨年も、ひとつも実を付けてくれなかった。
 だが今年の初夏にはピンクの花をいっぱい咲かせ、我々の期待通り、十数個の実が冬枯れの枝に残った。
 そのいくつかは虫や鳥に食われており、結局は8個だけの収穫となったが、きちんと芯の周りに蜜も入った立派なリンゴが獲れた。
 息子たちに食べさせると、「甘酸っぱい!」と言いながらも、喜んで平らげる。
 祖父が植え、父が育て、それを息子たちが頬張る。
 彼らのこころの中に、それはどんな味として残ってくれるのだろうか?
 いつの日か、訊ねてみたいものである。
 


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