ギリシャの財政破綻が毎日のようにニュースで取り上げられ、奇しくもその返済期限が来たその日に、東海道新幹線の車内で焼身自殺をした老人が現れ、新幹線乗車時の保安点検の是非が議論されている。
このなんの脈略もない2つのニュースには、ひとつの共通点が見出される。それは「社会的弱者が、いずれは社会の脅威となる」という点である。
新幹線車内で焼身自殺を遂げた老人は71歳で独り暮らし。住んでいたところは川崎のアパートで、年金で細々と暮らしていたが、最近では自身の経済状況に付いて、周囲に不満を漏らしていたと伝えれている。これもまた、最近、巷で話題になっている「下流老人」の典型である。
ギリシャが財政破綻した場合、融資元のIMF(国際通貨基金)やEU(欧州連合)が経済的な被害を被り、それは直接、我々日本人の暮らしには影響がないように思えるが、ご存知のように中東を中心にその勢力を拡大しているIS(イスラミック・ステイツ)などは、欧州の貧困層の若者たちを狙って、その活動メンバーを増やしている。このままギリシャの財政破綻を見殺しにすれば、いずれはその末端のどこかで、貧困にあえぐ若者たちによる過激なテロ集団への参加や、アンダーグランドでの犯罪に繋がっていく。
資本主義社会の「悪の方程式」として、貧困層が富裕層を暴力によってその暮らしを脅かす、というパターンが存在する。
その暴力は、ひったくり、詐欺、強盗、テロなど、殆どが捨て身の手法に依るもので、これ以上、失うモノがない者の強みである。おまけに「殉教者は來世で救済される」と説かれれば、命を簡単に投げ出す者が現れても不思議ではない。
もちろん富裕層は「失うモノ」を両手いっぱいに有り余るほど抱えているので、捨て身の暴力には敵わない。
平均的な価値観を持ち、同様の宗教観を抱いて来た日本人社会では、これまで他人の財産や生命を脅かしてまでも、己が生き延びる選択をする者はごく僅かであったが、今後はそういうケースの犯罪が増えて行くのは、アメリカの現在を鑑みれば容易に想像できる。人種的なマイノリティの増加も、その大きな要因となるだろう。
今回の新幹線車内での焼身自殺事件を伝えるニュース番組では、東京オリンピックを控え、その安全対策ばかりを議論している感があるが、もっと根本的な問題である「下流老人」問題などの貧困対策を、この事件を機に積極的に議論すべきだ。
貧富の格差によるツケは、必ず富める者が支払うことになる。そのツケに「生命の危険性」という余分な利息を付けない為にも、今後の対策が重要となるのである。
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