24歳の時に初めて雑誌の取材で渡米したことはすでに言った。
ロスでレンタカーを借り、ラスベガス、グランドキャニオン、モニュメントバレー、キャニオン・デ・シェリー、ギャロップと巡り、最終目的地のサンタフェまで、10日間掛けて行った。
ラスベガスを出てグランドキャニオンまでは観光気分で良かった。が、モニュメントバレーに着く頃には、些か、ホームシックに掛かり始めていた。なにしろ自然のスケールが大きい。それにその表情が荒々しい。ここに居て日本の自然を顧みると、日本の自然は実に優しいのだ。
それぞれの場所の宿で過ごしているとそんなには感じないのだが、移動の為にクルマを走らせると、その雄大さに押し潰されるような錯覚に陥る。とくにキャニオン・デ・シェリーへと向かう道中の景色には圧倒されてしまった。
もちろん旅には勝負は存在しない。だが気分的に白状すると、ボクは完全にその旅に「敗北」していた。すでに「愉しむ」というレベルを超えていた。雑誌の取材ということもあり、自分でも気付かないプレッシャーもあったのかもしれない。
そんな精神状態の中、キャニオン・デ・シェリーで見た「スパイダーロック」の光景が、いつまでもココロの奥底に残った。そしてそこで暮らすネイティブの人々を見て、自分の中の「アメリカ」というイメージが大きく変わった。自分にとって、それまでの「アメリカ」は白人社会のアメリカだった。いやもちろんアフロ・アメリカンの人々の存在も理解していたし、ヒスパニック系の人々もその理解の中にあった。が、ネイティブの人々の存在は頭で分かっていても、その実態がどうも把握できなかった。
確かにボクはその旅に「敗北」したかもしれない。だがその旅はボクを大きく成長させたことも確かだった。
そのキャニオン・デ・シェリーを約30年ぶりに訪れることになったが、そこは30年前と、まったくと言っていいほど変わっていなかった。そこに吹く風、香り、色、光...すべてがそのままだった。
前回来た時には「スパイダーロック」を見下ろすだけだったが、今回は「ホワイトハウス・オーバーロック」のトレイルを下りて歩いてみた。ガイドなしで自分たちだけで下りることのできるトレイルはここだけである。
リムの淵に立った時には強い風が吹いていたが、一歩、トレイルを下り始めると、その風も止み、完全なる静けさが辺りを支配した。朝陽を浴びて渓谷は黄金色に輝き、渓谷の底を流れる小川が平和で牧歌的な表情を醸し出していた。
30年前に来た時、そこはまったくの異国の地であったが、今回は不思議と、とても優しい懐かしさに包まれるような気がした。
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