最後の30分は本当に口数が少なくなった。
皆、無言で夜の雪道を行軍した。
先頭を行くボクが一度、道を間違えてから、その静寂は一層、顕著なものとなり、皆の緊張感を背中で感じた。
が、ようやくビバーク地の「大石峠」に辿り着くと、皆、いつものように歓声を上げ、重いザックを雪原に投げ下ろした。
いつも感じることだが、山で重い荷から開放されると、背中に羽が生えたような気分になる。
その高揚した気分のままテントを張り、薪を集め、我々は夕食の準備を始めた。そしてその夜は遅くまで焚き火を囲み、その日の縦走を振り返った。
翌日、薄明かりの中で目が覚めると、藍色の東の空に漆黒の山のシルエットが浮かび上がっている。
夜明けだ。
この夜明けの瞬間を見たくて、寒さも、暗い山道も、そして重い荷物にも耐えて歩いたのだ。この瞬間が見たくて…
他のメンバーも同じ思いだった。それぞれにカメラを手に取り、テントの中から飛び出す。静かにシャッターを切り、朝焼けの美しさにため息をつき、寒さを忘れて、目前で繰り広げられている自然のドラマに目を奪われている。
僅か30分ほどで、すべては色褪せ、いつもの朝に戻ってしまった。が、我々の心の中には、様々な組み合わせの暖色が重なり合う、美しい朝焼けが静かに横たわっていた。
さあ撤収の準備だ。
2005年12月24日アーカイブ
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木村東吉
1958 年大阪生まれ。
20代は雑誌「ポパイ」の顔としてファッションモデルとして活躍したが、その後、30 代に入りアウトドア関連の著作を多数執筆。
現在は河口湖に拠点を置き、執筆、取材、キャンプ教室の指導、講演など、幅広く活動している。
また各企業の広告などにも数多く出演しており、そのアドバイザーも務めている。
1958 年大阪生まれ。
20代は雑誌「ポパイ」の顔としてファッションモデルとして活躍したが、その後、30 代に入りアウトドア関連の著作を多数執筆。
現在は河口湖に拠点を置き、執筆、取材、キャンプ教室の指導、講演など、幅広く活動している。
また各企業の広告などにも数多く出演しており、そのアドバイザーも務めている。
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