今回も「河口湖マッスルクラブ」の話題を。
重い荷物を背負い、何時間も山道を登る。で、頂上や登山途中で美しい景色を見たり、珍しい動植物に出遭ったりすればその労苦は報われるが、濃霧や雲の中を歩き、その果てに頂に立っても、なんの眺望もなければ、いくら「筋肉と心肺機能」を苛めることが好きな我がクラブのメンバーとは言え、些かの不満も噴出すことだろうと思う。
しかも前回にもお伝えしたように、今年の5月は頂上直下にて残雪のために敗退している。
クラブの会長という立場、そしてその山をガイドするという立場を鑑みれば、この日、ボクが感じるプレッシャーは相当に強かった。
だが「三俣」の登山道に取り付いて約3時間半。頂上直下の300メートルほどの登山道には残雪が凍り、アイゼンの必要性も感じたが、下りの際には軽アイゼンの装着を確認の上、慎重に歩を進めて、メンバー全員が無事に「蝶が岳」の頂上に立った。
東北の方向には雲の切れ間からその頂を見せる「常念岳」、 西北方向に目を転じると、秋の青空に鋭く白い頂を突き刺した「槍ヶ岳」、そして圧倒的な強さで迫り来る穂高の山嶺。
その裾野、「涸沢」は紅葉が真っ盛りで、そこではきっと多くのアマチュア・カメラマンたちを魅了しているのだろう。
メンバーの一人が大声で笑い始めた。それに呼応するかのように誰かが笑い始めた。
意味もなく笑っている。
いや意味は十分にある。この景観を目の当たりにして、高揚する気持ちを抑えきれないのだ。
笑い声はやがて歓声に変わり、それは山々に対する賛美となってこだまする。
いかなる悩み、問題を抱えていても、この日、この瞬間、我々は限りなく幸せだった。